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岡山地方裁判所 昭和35年(行)6号 判決 1962年10月23日

高梁市弓之町七九番地

原告

小林豊吉

右訴訟代理人弁護士

本田猛

同市向町

被告

高梁税務署長

高田豊吉

右指定代理人検事

森川憲明

検事 上野国夫

法務事務官 森本湊

法務事務官 赤本勇

大蔵事務官 西川勇

大蔵事務官 安原了

右当事者間の昭和三五年(行)第六号入場税課税標準額決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三五年一月二一日付をもつてなした昭和三一年一月一日から同年五月三一日までの入場税課税標準額を入場人員五万三、六二六人、入場料金三五九万七、〇七〇円、入場税額金八〇万六、九六〇円とする決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として

一、原告は昭和三〇年二月頃から同三一年五月三一日まで高梁市所在の映画館高梁映画劇場において映画上演の興行をなした。

二、原告は被告に対し昭和三一年一月から同年五月までの入場税課税標準額を別表申告額記載のとおり入場総人員三万七、四二〇名、入場料金総額二四二万一、七六〇円、入場税総額五二万七、九七〇円として申告した。

三、これに対して被告は昭和三五年一月二一日付をもつて原告に対し右課税標準額を同表決定額欄記載のとおり入場総人員五万三、六二六名、入場料金総額三五九万七、〇七〇円、入場税総額八〇万六、九六〇円とする旨決定し、その頃これを原告に通知した。

四、そこで原告は同年二月一八日被告に対し再調査の請求をしたところ、訴外広島国税局長はこれを審査の請求がなされたものとして同年六月四日右審査の請求を棄却する旨の決定をし、右決定はその頃原告に送達された。

五、しかしながら、原告の課税標準額は別表申告額欄記載のとおり入場総人員三万七、四二〇名、入場料金総額二四二万一、七六〇円、入場税総額五二万七、九七〇円であつて、これをこえる被告の右決定は不当であるからその取消を求めるため本訴請求に及ぶ

と陳述し、被告の主張に対し

被告が原告に対する課税標準額決定の基礎としたメモは原告の作成したものであるが、右メモは真実の入場人員、入場料金を記載したものではない。すなわち右メモは、被告の前記高梁映画劇場の経営が当時欠損続きで負債も多額にのぼつていたため、他から融貸をうけるかさもなければその営業を譲渡してしまわなければならない状態にあり、いずれにしても営業成績の良好なことを示す必要があつたので、入場人員、入場料金を水増して架空の数字を記載したものにすぎない。従つてこれを基礎としてなした課税標準額の決定は不当といわなければならないと答え、

立証として甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証を提出し、証人藤野猪名男、同大森正二、同小林綾子の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立をすべて認めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として

原告主張の請求原因一ないし四の事実はすべて認めるが、同五の事実は否認すると答え、その主張として

一、原告に対する課税標準額の決定は原告が昭和三一年一月一日から同年五月三一日まで日々の入場人員、入場料金等を記載したメモを基礎にしてなしたものである。

二、右メモは以下に述べる事実から高梁映画劇場の真実の入場人員、入場料金額を記載したものと認められる。すなわち

(1)  長期にわたつて日々料金別に入場人員及び入場料金総額が克明に記されており、かつ日付によつて筆蹟が異つていること。

(2)  昭和三一年一月一日から同月六日までのメモ記載の入場料金合計額が「決算表」と題する別のノートに一日毎に整理転記されていること。

(3)  メモの記載されている学校の団体入場人員については、当該学校長の証明する入場人員と符合するものがあること。

(4)  メモの記載中原告が入場税法二二条より所定事項の記入を義務ずけられている帳簿の記載と符合する部分があつたが、原告は被告に対し申告をなすに当り右張簿の記載部分を故意にメモ記載の数額より少額に書きかえていること。

三、右メモの記載によれば別表決定額欄記載のとおり昭和三一年一月一日から同年五月三一日までの入場総人員五万三、六二六名、入場料金総額三五九万七、〇七〇円、入場税総額八〇万六、九六〇円となる。

従つて本件課税標準額の決定は正当であるから原告の本訴請求には応じられないと述べ、

立証として乙第一号証の一ないし三一、第二号証の一ないし三一、第三号証の一ないし二八、第四号証の一ないし二九、第五号証の一ないし三〇、第六号証の一、二、第七号証の一ないし七、第八ないし第一〇号証を提出し、証人山崎一介の証言(第一、二回)を援用し、甲第一、二号証、第四号証の各成立を認め、同第三号証の一、二の成立はいずれも知らないと答えた。

理由

原告主張の請求原因一ないし四の事実はいずれも当事者間に争いがない。

そこでまず原告が作成したものであることにつき争いのない乙第一号証の一ないし三一、第二号証の一ないし三一、第三号証の一ないし二八、第四号証の一ないし二九、第五号証の一ないし三〇(いずれも入場料金別に売上入場券数並びに入場料金額その他を記載したいわゆるメモ、以下単にメモと略称する)が原告の経営していた高梁映画劇場における真実の入場人員、入場料金を記載したものかどうかについて考えてみるのに、右メモはその趣旨並びに形態から業務の通常の過程において作成されたものと認められるから、その記載内容は一応真実のものと推認すべきである。従つて原告において右メモが虚偽の事実を記載したものであると主張するからには然るべき事由につきこれを立証する責任があるというべきところ、原告は右メモは他から融資を受ける都合上ないしはその営業を有利な条件で他に譲渡するために入場人員等をいわゆる水増して架空の数字を記載したものであると主張し、原告本人は右主張に副う供述をするが、右供述は後記各証拠並びに認定事実に対比して容易に措信し難く、甲第三号証の一、二、同第四号証並びに証人藤野猪名男、同大森正二、同小林綾子の各証言をもつてしても原告の右主張を認めるに充分でなく、地に右メモの記載が虚偽であることを首肯させるに足りる資料は存しない。かえつて前顕乙号各証にいずれも成立に争いのない乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし七によれば、

(1)  右メモには昭和三一年三月二六日、同月二七日、同月三〇日、四月二九日、五月一日を除いた外同年一月一日から五月三一日まで一日毎に料金別の入場券売上枚数、入場料金並びにその総計が克明に記載されていること

(2)  同年一月一日から同月六日までの入場料金総額が「決算表」と題するノートに整理して転記されていること

(3)  同年四月一九日(乙第四号証の一九)の団体入場者中岡山県松山高等学校の入場人員並びに入場料金、高梁市立玉川小学校増原分校の入場人員、同月二〇日(同第四号証の二〇)の団体入場者中高梁市落合中学校の入場人員並びに入場料金、同月二一日(同第四号証の二一)の団体入場者中高梁市高倉小学校の入場人員がそれぞれメモの記載と当該学校長作成の団体入場調査書の記載と一致し、同月二一日の団体入場者中高梁市落合小学校の入場人員、同市津川中学校の入場人員並びに入場料金、同月二二日(同第四号証の二二)の団体入場者中高梁市立川面小学校の入場人員並びに入場料金がそれぞれメモの記載と前同調査書の記載と略一致すること

がそれぞれ認められ、これら認定の諸実事は本件メモが原告の経営していた高梁映画劇場における昭和三一年一月一日から同年五月三一日までの真実の入場人員、入場料金を記載したものであることを裏付ける証左であるといえるのである。

そして前顕乙第一号証の一ないし三一、同第二号証の一ないし三一、同第三号証の一ないし二八、同第四号証の一ないし二九、同第五号証の一ないし三〇に証人山崎一介の証言(第二回)を綜合すれば、原告の経営していた高梁映画劇場における昭和三一年一月一日から同年五月三一日までの入場人員、入場料金は別表決定額欄記載のとおり入場総人員五万三、六二六名、入場料金総額三五九万七、〇七〇円であることが認められ、この認定をくつがえすに足る証拠はない。

そうすると、被告が原告に対し昭和三五年一月二一日付をもつてなした昭和三一年一月一日から同年五月三一日までの入場税課税標準額を入場人員五万三、六二六名、入場料金三五九万七、〇七〇円とし、これを基礎として入場税額を八〇万六、九六〇円と算定した被告の決定には何ら違法がないというべきであり、従つてこれが取消を求める原告の本件請求は理由がないから失当として棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田章 裁判官 広岡保 裁判官 金野俊雄)

<省略>

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